能をベースに深層心理を泳ぐダイバー
「ザ・ダイバー」を観てきました。
野田秀樹です。イギリスで話題になった芝居です。
能の「海女」や「葵上(あおいのうえ)」 や
「源氏物語」をベースに過去にあった
日野OL不倫放火殺人事件が重なって展開していくのが
脚本も演出も野田らしくて気持ちがよかったです。
妻の立場も愛人の立場も古典的。
てか、人間が生きるというのはそういうことで、
妊娠や出産、家族との生活を人生とするなら、
女にとってゲームではないのだという道徳も書かれています。
嘘とはなんだろうと、漠然と思いました。
もしも選ぶのではなく、男は両方を愛したという視点から出発したら
どうなったかな、野田秀樹に考えさせてみたいなと思いました。
一人しか愛せないということはないのだから。
子供が二人いたら、どっちも愛すのが人なんだもの。
これは全然、本筋ではないのですけどね・・・。
一人しか愛せない、子宮には赤ちゃんは一人みたいな女目線で
男の野田が書いていったのをすごいなと思います。
実際の事件は堕胎したOLが不倫相手の家に火をつけて、
子供2人が焼死してしまったというものです。
シナリオでは自分も2人堕胎しているので、
子供4人殺しているという設定です。
既婚者、独身、子持ち、出産経験なしで、感じ方は変わってくるのが
今回の野田秀樹のおもしろいところです。
観客、ていうか私には気持ちの選択権のあまりなかった
野田秀樹 劇にしては、いろんな気持ちを観ることができました。
私は脚本は結局誰も悪くなかったという仕掛けが好きです。
この話がという意味ではありません。
今回は男のほうが泣くのかも、ふとそう思いました。
友達が
「私なら、罪は犯さないな。一人で子供を生んで育てる」と言いました。
もしかしたら第三の選択肢があるのかもしれません。
そんなにきつい話ではないと思います。
毎回キャサリンハンターの演技力には魅せられます。
踊りで表現する能らしい感情表現を見事に演じます。
怒り、憎悪、悲しみ。
セリフでではなく、舞台と感情を共有できるのは気持ちがいいです。
古典芸能の素晴らしいところを切り取ったような野田秀樹の演出。
一緒に観た能楽師、無形文化財の森常好 も
キャサリンをほめていました。
「THE BEE」のときもそうでしたが、
人間の二面性が悲しく描かれています。
あっ、私には悲しかったの。
そして狂気で縁取られる多重人格が母性へとつながっているところが
なんともせつないのです。この辺は能を上澄みでとらえていない
野田秀樹の底力と言っちゃいます。
野田が能をやると、能も野田もわかりやすく、より深くなるという新たなる
発見が私にはありました。
野田版 「葵上(あおいのうえ)」 なんてあってもいいと思います。
どうよ。
野田秀樹が生命を語るのは、まだまだこれからです。
楽しみだわ。
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